私は人事の仕事と並行して技術部の仕事も担っている。キャラクターの全く異なる仕事だが、人事とはまた違った楽しさと難しさがある。
開発は、仮説を立てる、実験する、結果を検討する、検討結果から仮説を立てる、実験する、(以下略)。これの繰り返し。思い通りに行かない方が多いどころか条件設定そのものにポカミスをして、ひどい失敗になることもある。しかしこの失敗の持つ情報量を侮ってはいけない。失敗は失敗なりに有用なヒントがたくさん含まれているから大真面目に検討する。
うまくいった実験も、うまくいかない実験も、何かを見出すことが重要だ。その現象はどうして起きたのか。失敗でさえ意味を見出す。その新しい意味のことを「発見」と言う。小さな発見でいい。何か発見できればその実験はムダにはならない。
実験をしていて特に楽しいのは、どこにも書いてない発見を見つけた時だ。教科書にもない、論文にもない、ネットを見てもどこにもない。そんな新たな発見に出会えるのがものづくりの醍醐味だ。
新発見とは、それまで誰も見つけられなかったという意味でまさに「常識外」「非常識」の中にあり、「そんな馬鹿なことあるわけないだろう」「まさか」というところに潜んでいる。
青色発光ダイオードの量産でノーベル物理学賞を獲得した中村修二さんが日亜化学時代に成し遂げた大きな発見の一つは、どうやってもn型半導体(半導体にはプラスのP型とマイナス側のn型の2種類がある)にしかならなかった窒化ガリウム膜を安定的にp型にする方法だ。
日亜化学の話によれば、あれこれどうやってもn型にしかならない基板を、工場の若手が「熱をかけたらどうですか?」と提案し、中村さんから「そんな簡単なことでできるわけないだろ、勝手にしろ!」って言われたけど勝手にやったら出来ちゃった、のだとか。
真偽の程はさておき、すくなくともこの「熱をかける」という超絶シンプルで「そんな馬鹿なことあるわけない」非常識な実験がノーベル賞につながったのだから、自由闊達に何でも言いたいことが言える環境、「バカな」意見にさえも耳を傾けることがどれだけ重要なのかわかると思う。
ところが、だ。歳を取ると若い人の意見に耳を傾けるのがとても難しい。歳を取れば取るほど知識や経験が固定観念となり、バカバカしい意見には耳を貸さない。
いきなり頭の硬い人の脳みそを柔らかくすることは難しいが、少なくとも言いたいことが言える風通しの良さ、組織文化があることが望ましい。上記の日亜化学でも、若手がチームの中でバカバカしいアイデアを言えるだけの風通しの良さがあったのは間違いない。自由闊達に意見が飛び交い「んなバカな」というレベルの意見が遠慮無く出せることがクリエイティブなチームの礎となる。
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