峠の釜めし

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私がテクダイヤに入社したばかりの20代の頃のお話。

それこそ本当に入社したてて右も左もわからない時期に、当時の社長(現会長)のカバン持ちで出張することになった。まだ新幹線が無いころだから特急電車に乗り、長野駅で乗り換えてさらに長野電鉄に乗ってお客さんのところへ行く。

長野駅よりちょっと手前にある横川駅で販売している釜めしは当時から有名だった。駅弁に配慮してなのか、横川駅の停車時間はちょっとだけ長い。

その横川駅で会長が「お前、釜めし食うか?」とおもむろに聞いてきた。

「はい」

と返事すると会長は「ちょっと待ってろ」と言って自ら釜めしを買いに席を立とうとする。

「いえいえいえいえいえ、社長、私が行きますよ」

私が席を立とうとしても

「いいんだ、いいんだ」と聞いてくれない。脱兎のごとく電車を下りて自分で買ってきてしまった。

あの時のテクダイヤでも年商20億くらいあったかと思う。アメリカやフィリピン、香港、オーストラリアに支社があるような会社の創業者が、入社したてのペーペー20代社員を差し置いて自分で駅弁を買いに行くという事実にかなりの衝撃を受けた。

話すことも、その行動も大胆かつ超絶エネルギッシュでワンマン風なのに、その実とても民主的で人を雑に扱うことがない。面白いことに社長の代が変わってもその文化は変わらない。これがテクダイヤ流なのか、と思う。

あれから何年も経つのに釜めしを見るたびに思い出す。会長に駅弁買ってきてもらったのに、自分は後輩や部下に買いに行かせるわけにはいかない。だからお弁当でも飲み物でも、お金を渡して「買ってこい」なんてやらない。

こうして文化は引き継がれるのだ。