給料はどうやって決まるのか

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さて本日は、サラリーマンの給与が何を基準として決まるのかについて触れておきたい。大原則としてサラリーマンの給与水準は、その住んでいる生活環境と世間相場で決まる。会社の扱っている商品やサービスの価格とか、会社の売上や利益とは関係が無い。

と言うと、かなりびっくりする人も居るだろう。会社が大儲けしていたら社員もそれに合わせてボーナスがもらえたり給料が上がるのが当然ではないか、と考える人は多い。

会社の利益で自動的に社員の給与が決まるのだとすると、たとえば日本でやっている仕事をフィリピンに持って行った場合どうなるのか?人件費が安くなって利益が増えた分、フィリピン人社員にたくさん還元するのか?って、そんなことはありえない。我々がフィリピンに工場を持っていく理由はより多くの利益を確保するためだ。日本人だと生活ギリギリの給料しか払えないからあまり喜んでくれないが、フィリピン人だと平均賃金の2倍払えて従業員の喜ぶ顔が見れて楽しいから、などという慈善事業的な目的で海外工場を操業する人は居ない。

そんなフィリピンでも相場よりも高い給与を支払わなければいけないとすれば、それは他の企業が優秀な人材を求めて相場が高くなるからだ。もしも他にさしたる産業も企業も無く人件費の相場が物凄く安いのであれば、地元の法律にしたがって最低賃金で雇用することが容易になる。

逆のパターンを考えてみよう。

今、世界中から多くの優秀な人材が集まるアメリカのシリコンバレーで人を雇おうとするとどうなるか。物価も高く人件費も高い。新卒といいながら即戦力になる優秀な人材の初任給の相場は高騰している。少なくとも日本の2倍以上は出さないと採用は難しい。会社の規模が小さいから、利益が少ないから、という理由で給料をケチっていたら優秀な人材は採用できない。会社の利益と給料は連動せず、世間相場で決まるという理屈がここでもおわかりいただけたかと思う。

見かけ上、会社の利益が上がると社員のボーナスが増えたり社員の給料が増えることがある。しかしそれは利益を分配しているのではない。たくさん儲ける会社は優秀な人材を採用し確保する必要がある。だから採用市場の競争原理の結果として、他社よりも多く払うだけのこと。もちろんこれまで頑張ってくれた慰労、功労の意味もある。しかし世間相場を大きく越えて利益を配分することはない。

給料は世間相場と採用市場の競争性で決まる。これが基本原則だ。

給与をめぐるもう一つのお話。日本の企業は開発者、技術者に対する給与が欧米に比べて少ないという話について。

会社には色んな仕事がある。直接的に製品開発に携わる人も居れば事務屋も居る。売上金額の多い製品を手がける人も居れば、品質管理という結構大事だけど地味な仕事につく人もいる。それなのに、製品開発をしている人だけが世間相場を飛び越して利益を歩合でもらうのは、同じ会社で同じだけ努力をしているそれ他部署の人に対して不公平極まりない。そんなことを認めていたら社員全員が製品開発に関わりたいと言うに決まっているし、開発に居る人は他部署へ異動しなくなってしまう。

それでもまだ「日本は開発者を冷遇している」「日本からどんどんと科学者が流出してしまう」という声が聞こえてきそう。青色発光ダイオードの開発で有名な中村修二さんがノーベル賞受賞した時によく盛んにそういうことを言っていた。これもちょっと違う。

半導体黎明期にフェアチャイルドセミコンダクターを設立した「ムーアの法則」で有名なゴードン・ムーアも、インテルを作ったロバート・ノイスも、アメリカンドリームの象徴とされるビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズも、Facebookのザッカーバーグも、みんなエンジニア、科学者、プログラマーだが創業者、起業家である。

起業はギャンブルの要素が濃い。どんなに事業計画を入念に建ててもコケる時はコケる。そのコケた時に経営者は自分の資産を失い、または借金を背負うことになる。 それに対して従業員として開発に携わるものは失敗しても自分の貯金が没収されるようなことはない。

また海外ではストックオプションで優秀なエンジニアや社員に自社株を持たせるなどの策を取ることは多い。これならば利益が出た時に配当という形で利益を分配することができる。給料で払えばいいのにわざわざストックオプションにするのは、利益の配分を給料では行わないことを意味している。

ちなみに、常識的に考えて青天井に全員の給料が増えていくと経営が成り立たないので、増える割合が多い会社ほど、リストラされる仕組みが盛り込まれる。日本の給与が安すぎる、欧米の企業を見習え、という人もその欧米企業の冷酷な解雇については口を閉ざしてしまう。加えて、高い人件費を出す国や地域は失業率も高い。誰もが高いというわけではないのだ。

おいしい話はそうそう転がっていない。