昨年ボストンへ出張に行った時の出来事。英文科卒業の入社1年目Mさんは、現地レストランでウェイターに注文する時、思い切り満面なニコニコ笑顔でメニューを指さしながら、明確な発音でこう言い放った。
「イチ!」
一瞬固まるテクダイヤ一同。え?ちょっ、ちょっ、ちょっ、今のなに?日本語?マジで?オイオイ、日本の犬だってワンくらい言えるぞ。
という冗談のような本当の話はさておき、テクダイヤでは入社選考で英語が無いのでこういう人でも採用する。
英語が苦手なんですけど大丈夫ですか?という質問については以前に書いたのでそれを見てもらうとして、今日は別の角度から論じてみたい。
テクダイヤは開発は国内、製造は海外(フィリピン)。おまけにその製造工場の人数は日本本社の約10倍。売上の半分は海外で、販売支社はアメリカ、台湾、韓国、中国にある。それなのに入社では英語のテストも無ければ、入社後にも英語の検定試験を課してはいない。
これまでたくさんの社員が出張であれ赴任であれ海外に出て仕事をしている。その中で、どんな人が結果を出せるのか判明しているのだが、決して英語ができることと比例も反比例もしない。相関関係があまり見られないのだ。
これは英語だけの話ではない。中国、台湾、韓国へ行っても同じ。フィリピンで結果を残せる人間が中国へ行くと途端に使い物にならないとか、逆に中国だけ限定的に結果を出せる、ということはあり得ない。
学生さんにはわかりやすくナンパに例えて説明している。「日本語が流暢な日本人なのに、どうして街でナンパしないんだ?逆にどうしてろくすっぽ日本語ができない外国人がナンパできるんだ?」と。
今の御時世、英語でも中国語でもバイリンガル人材を探すのはそんなに難しくない。しかし、わかりにくい技術的な説明を同じ日本語でも相手にわかりやすく説明できる人材はなかなか居ない。説明を受けなくとも製造過程を見ただけでどこが悪いのか見抜く能力を持つ人材を探すことも難しいし、5分あれば顧客をファンにさせてしまうほどの魅力を持つ営業員なんてそうそうめったに見つからない。
英語が出来たとしても相手を不用意に怒らせたり、また日本語同士のコミュニケーションでも言葉は通じても気持ちが通じ合えないのでは意味が無い。
冒頭の話、モジモジと小声で「one」などと言うより、日本語で堂々と注文すればよっぽど相手に意志も意味も通じるのだ。英語も通じないような国だったら、私も堂々と日本語を使う。
というわけで、テクダイヤでは入社の選考試験で英語のテストを課すことはこれからもずっと無いだろう。