揺れる飛行機

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仕事がら飛行機に乗る機会は多いが、実のところかなり苦手。気にしないようにしているのだがついつい緊張してしまう。本来は国際便に乗るのであれば一流ビジネスマンよろしくラップトップPCでも開いて仕事をしたいところだがそんな余裕もなく、2流サラリーマンのおっさんに成り下がってアルコールをかっくらい三半規管を麻痺させてさっさと寝ることにしている。その方が疲れが少ない。おかげで映画を見ても途中で落ちてしまうので全然結末までたどり着かない。結末が気になって帰りの便で同じ映画を見るのだがこれもまた結末までたどり着かない。飛行機の中では完全に駄目な酔っぱらいオヤジだ。

かなりの回数乗っているのだが今のところあまり危険な目に会ったことはない。ドラマのような「お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか」というのは2度しか遭遇したことがないし、途中まで飛んだ飛行機が機体の不具合で引き返したのも一度だけ。予定していた飛行機が急遽飛ばなくなって現地で足止めというのも一度しかない。あれ?考えると結構ある(笑)。

それでも工場がセブにあるためにフィリピン出張は多く、航路が台風の通り道と重なるため酷く揺れることがある。これが実に厄介。あまり揺れすぎて機内食のサービスがなくなるのはまだマシ。困るのは配られた後に揺れるパターン。食事はフタをすればいいが飲み物はこぼれるから困る。

飲んでしまえばいいじゃないかと思うかもしれないが激しく揺れる機内で飲み物を飲むのは、例えれば全速力で走りながら飲み物を飲むようなもので、口元からクビ周りにジャブジャプとこぼれて上手く飲めない。こうなるとひたすら揺れが収まるまで耐えるしかない。これがジュースやビールなど冷たいものであれば手でフタをしてしまえばいいが困るの熱いお茶やコーヒーだ。

以前斜め前に座っていたフィリピン人のおばちゃんが熱々のコーヒーをどうするか見ていたが、困り果てた挙句おしぼりのタオルでフタをしていた。その手があったか!

などと人のことを笑って見ていたら、上海に行った時にもっとひどい目に遭った。

その時は片道切符を買ったためエコノミーよりも安いビジネスクラス(中国系航空会社)に乗ることができた。ビジネスクラスだと水でさえ味気ないペットボトルをただ渡されるようなこともなく、しゃれたワイングラスにきちんと入れて出してくれる。水では酔えない私はワインも頼んだ。しかしここからが問題。

台風も低気圧も無いはずなのだが揺れた。台風シーズンのフィリピン航空より酷い揺れだ。シートベルト着用サインはつきっぱなし。なのにキャビン・アテンダント達はサービスを止めない(笑)。あまりに揺れすぎてCA達も自分の席まで戻れず「達磨さんが転んだ」で鬼に睨まれた子供のように客席をガシっと掴んだまま動けない状態が続いた。

私の目の前に置かれた、不安定なグラスに入った水とワイン。テーブルに置いたままだと確実にこぼれるので両手に持ちひたすら耐えるしかない。快適なビジネスクラスの旅が、いつのまにかバランスボールの上で曲芸する罰ゲームに変わった。

それでも一瞬飛行機の揺れがおさまった隙に両方のグラスを一気に飲み干した。するとCAがそそくさと近寄ってきた。おう、さっさと空のグラス片付けてくれや、と言おうとした時にCAから投げかけられた一言。

「Do you want some more?」

場違いな言葉に私は考える間もなく脊髄反射で答えてしまった。

「Yes, please...」