ダイヤモンドの現実

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ダイヤモンドというのは面白いもので、15世紀に研磨技術が発明されてから500年以上も時間が経つというのに、その当初に発明された方法(高速で回転する鉄の円盤にダイヤモンドを押し付ける)を上回る効率で 磨く方法が開発されていない。人件費の高い人が磨いても安い人に磨かれても、スピードが変わらないのだ。

ここ20年ほどは自動機の導入も進んでいるが、天然のダイヤは一粒一粒に癖があるため仕上げはどうしても人の手に頼らざるをえない。だから当然、人件費の高いころで磨くと利益が飛んでしまう。いまやダイヤモンドの研磨工場はほとんどが中国、アフリカ、タイという発展途上国で行われているのが実情。

そして研磨済みのダイヤモンドはそれぞれのブランドの本国に持ち込まれ、あたかも「ニューヨーク」とか「ベルギー」というイメージが付与され、時にはその国が製造国であるかのような表示で販売されている。

実はかつてそうとは知らず、とある有名ブランドのダイヤモンドの東南アジアの研磨工場を見学したことがある。比較的良心的なメーカーだから東南アジア製ということを意図的に隠すこともなければ、当然の事ながら大々的に宣伝もしていない。現地ワーカーだけで500人ほどの工場だったが、本国から職人が何人もやってきて技術指導をしているからクウォリティーそのものには問題が無い。それでも人件費高騰のためアフリカに工場を設立し技術移管を進めている。

大雑把に言ってデパートや小売店で売られているダイヤモンドの販売価格を100とすると、仕入れ値は50ほど。デパートに卸しをしている代理店や商社の仕入れ値は35くらい。差し引き15%が代理店の儲けとなる。とすれば、30万円で売られている婚約指輪のダイヤモンドのメーカーの原価は10万ほど。原石のコストが3万円くらいだと考えると研磨費用はせいぜい1万以下に抑えないと利益が出ない。だから一日の人件費が1000円以下の東南アジアやアフリカ、中国でないとやっていけない。

逆に一日の人件費が3万~4万のヨーロッパやNYの職人は販売価格300万以上の高級品しか手がけられない。人件費で考えればサラリーマンが気合を入れて買う婚約指輪はダイヤモンド業界としては小粒すぎて(泣)、本場の職人の領域ではないのだ。

これは何もダイヤモンドだけの話ではなく時計も同じ。まっとうにスイスで作られる時計は金やプラチナなどの貴金属を使わずとも80万以上はする。20~40万くらいの手が届きそうな時計なら、間違いなく途中の工程には東南アジアや中国が絡んでいるはずだ。でなければ計算が成り立たない。

ダイヤも時計も、誰がどこで作ったかというストーリー性やブランドで買うのか、また実質的な機能性を見て買うのか、そのどちらかを選ぶのはユーザーの考え方次第だ。