緊張と集中

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数千人くらいの人の前で話をするのにそれほど緊張しないのに、楽器の演奏となると数人レベルの観客でも極端に緊張してしまう。なぜか楽器の種類のよって緊張度が異なり、弦楽器よりも管楽器、管楽器よりも鍵盤楽器の方が駄目だ。おそらく幼少期のピアノの教師が怖い人だったことに起因するのかもしれないが、詳しいところはわからない。とにかく楽器店で試奏するのですらアガるのだから我ながらにひどい。なので楽器は人前で演奏するものではなく、もっぱら一人で練習する方が楽しい。

そんなこともあり「緊張感が足りない!」という説教は昔からアホくさ、と思ってしまう。緊張して良いことなんか何もない。必要なのは緊張感ではなく集中力だ。

たしかに緊張感を高めると一時的には集中力が高まることがある。しかしその緊張感は前向きな自発的集中力とは異なり、危険な目に遭うのではないかというビクついた、ネガティブな集中力だ。怒られるんじゃないかという緊張感、おばけが出るんじゃないかという緊張感、足を踏み外してしまうんではないかという緊張感、間違えてしまうのではないかという緊張感。しかしそのネガティブな緊張感が本当にベストな結果を生むような集中力を発揮するとは思えない。

第一、それらの集中力が外部要因によって発生するものだから、オン・オフのコントロールが難しく、疲弊してしまいベストパフォーマンスが出せるような集中力が発揮できない可能性が高い。

鬼滅の刃ブームで、原作漫画を呼んだこともないおじさんが「全集中」という言葉を使うようになったが、あれが「全緊張」だったらおかしい。そんなにビクビクして技なんか繰り出せない。周囲の音や空気の流れ、振動、温度、気配、そして自分の身体のあらゆる身体活動にまさに「全集中」した上での呼吸がさまざまな型という技につながっていく。

緊張感が足りない、ではなく、どうして集中できないのか、そこをクリアにしなければベストパフォーマンスにつながらない。

全くの無音ではかえって様々な雑音が聞こえて集中力を削ぐのであれば、小さな音量で落ち着く音楽をかける方がそのマスキング効果で集中力が高まるだろう。頭を使う仕事だけでなく運動する時間も確保しメリハリを付ける、ダラダラとやるのではなく時間を区切って短時間で終わるようにする、など集中力を高める工夫は様々だ。