就職浪人をおすすめしない理由

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最近、同僚に勧められて「梨泰院クラス」「愛の不時着」と韓流ドラマを立て続けに見ている。もともと韓国出張するようになってからは韓国映画をよく見ていたが、ドラマに関しては「生き別れた家族」「不治の病」「記憶喪失」という日本の70年代ドラマに使われていた安直な設定が多かったので敬遠していたのだ。

韓国映画は90年代終わり頃、金大中大統領が映画を基幹産業と定め、国が支援をしたことで優秀な人材がどっと映画界に流れこみ、国際的にも通用する映画が誕生してきた。

「シュリ」1999年
「JSA」2000年
「チング」2001年
「猟奇的な彼女」2003年
「オールドボーイ」2003年
「殺人の追憶」2004年
「私の頭の中の消しゴム」2004年
「親切なクムジャさん」2005年
「母なる証明」2009年

一方ドラマの方は、日本でもヒットし韓流ブームの嚆矢となった「冬ソナ」が2002年。本格的なストーリー重視の映画界とは反対に、安直で安っぽい設定が増え皮肉にもそれが70年代ドラマを知らない世代の日本人に受けた格好となった。

さて、韓国ドラマを見ていていつも気づかされるのは、年齢の上下関係が明確に表現される点だ。年齢がちょっとでも上だと先輩や兄貴として明確に上下が表現される。半年や一ヶ月だけ生まれが早いだけで先輩風を吹かせるシーンは珍しくない。

年長者を敬うという儒教的な考え方ではあるが、本家中国の方は数年くらいの年齢差だけで上下関係が厳しいということはない。ある意味この先輩/後輩が厳格なのは韓国と日本で発達した独特の文化だと思う。

就活ブログでなぜ延々と韓流ドラマや映画の話をしたかといえば、新卒一斉採用はこの儒教的文化の影響が根底にあるのではないかと個人的に思っているからだ。

普通、1学年の中に大きく年齢の離れた人は居ない。浪人や留学で1年くらいズレても許容範囲だ。その年齢が揃った新卒者が毎年一度に一斉に入ってくると会社の中での年齢階層はスムーズに形成される。

もしここに、年齢が5歳くらい上の後輩が新卒者で入ってきたらどうなるか?韓国ドラマなら非常に居心地の悪い設定になることは間違いない。日本だって5つも年上の人間にタメ口、命令口調で「おまえ何やってんだよ」「締切は昨日までだって言っただろう!」などと叱責できる人はあまり居ないだろう。

そもそも企業において「若手」という言葉が使えてしまうこと自体が年功序列を如実に物語っている証拠だ。能力だけで採用や昇進が決まるのなら年齢階層は形成されない。歳取った未経験者、若い管理職など混然としているはずなのだから。大学卒業後すぐに結婚出産子育てして30歳で新卒とか、世界中バックパック旅行して35歳で新人とか、複数の大学を卒業して32歳の新卒1年目とか、いろんな人が居ることになる。

しかしながら現実的にはそうはなっていない。新卒採用は若い人に限られている。その理由が、年長者を敬わなくてはいけない文化のせいで、組織が「未経験者は若く、年齢とともに経験値と実力値を上げていく」という無理のない年齢階層を求めるのだ。

違う文化圏の人からすれば年長者を敬わなくてはいけない風習は、非常にバカバカしい文化かもしれない。だがその一方で歳を重ねるごとに年相応の経験や知力・能力を備わっていなければならない、というのはある意味きつい文化と言える。ぼーっと生きていて無条件に尊敬されるなんて虫のいい話ではない。

大学で留年してもいい、休学しての留学でもいい、なんなら勉強を離れてフリーターでも構わない。どんな遠回りもOKだ。しかし日本ではその余計に費やした時間で年齢にふさわしい経験が積まれていることが要求される。逆に、かけた時間ほどに実績が積めないと評価は下がる。

だからこそ安易な就職浪人はおすすめしない。就職浪人を正当化できるだけの経験を、就職浪人生活で積むことは難しい。意中の会社でなくても、1年後でも2年後でも、のちのち転職するときに「自分はここでこれを学んだ」と誇れるだけの経験を積めるように就職してしまったほうがいい。

フリーターになるのであっても、その経験を堂々と履歴書に胸張って書けるようなことをすべきだ。そして入社年度がズレても「さすが年齢重ねてるだけありますね」と言われるようになるべきだと思う。

さて韓国ドラマに話をもどせば、韓国社会では先輩は必ず後輩に対して面倒見がいい。面倒見が悪いのに先輩風を吹かす人は居ない。ドラマの中だけの美談ではなく実社会がそうなのだ。

かつて頻繁に韓国へ仕事で訪れていた頃、仕事で知り合う顧客や取引先の誰もが、こちらが歳下だとわかると先輩として、よき兄貴分として、仕事を離れてもこちらを気にかけてくれ面倒見よく接してくれた。例外は無い。そのかなりウェットな関係が韓国で仕事をするときの面白さでもあるのだ。