ダイヤモンドは傷だらけ

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実はダイヤモンドの表面が傷だらけだ、といったら大抵の人がびっくりするだろう。

ダイヤモンドは、高速で回転する鉄製円盤(これをスカイフと言う)に押しあてて磨かれる。そのスカイフにはダイヤモンドの粉があらかじめ塗られている。高速で回転しているスカイフにダイヤモンドを押し当てると摩擦熱が発生する。大きなダイヤモンドの場合には原石を掴んでいる鉄製の工具が真っ赤になるほどの熱だ。

この摩擦熱と回転する運動力によって、ごくごくほんのわずかにダイヤモンド表面が薄く剥がれる。スカイフ上のダイヤモンド粉末にも同様にこの現象が起こる。剥がれたダイヤモンドが微細な砥粒となってスカイフとダイヤモンドの間に滑り込み、次から次へと研磨が進んでいく。

だがスカイフとダイヤの間に噛み込んだダイヤモンドの粒はナノ(100万分の1ミリ)レベルと、すごーく小さいから、これによってつけられた傷は肉眼はもちろんのこと、顕微鏡ですら見ることはできない。見えないけど研磨方向に沿ってしっかりとナノサイズの傷は残っているのだ。

なのでダイヤモンドの仕上げは、正式には研磨を意味するPolishを使わない。正しくはCuttingと言う。Diamond Cuttingだ。

他の宝石ではこういう特殊な現象が起きないため、加工方法がやや異なる。荒い砥石からだんだんと目を細かくし、最後は比較的柔らかな布状のもので磨くことになる。これはまさしくPolish。傷は取れる代わりにダイヤのようなシャープな平面にはならない。試しにルビーやエメラルド、水晶といった宝石、またはスワロフスキーのクリスタルなどをググって画像を見比べてみてほしい。それらの拡大写真はどれもエッジがちょっとダレているはずだ。面(ファセットという)同士の織りなすエッジがカチッとしているのはダイヤモンドの特徴である。

金属の磨きも同じで、砥石を使えばシャープな面が出るが、紙やすりや研磨布、バフといった柔らかな物では平面はダレる。包丁やナイフなどの刃物はエッジが命だから「磨き」よりもエッジ重視で「研いで」いく。

人も、エッジの効いた人は必ずどこかで必ずハードな経験を経ている。その困難は自らの夢の実現のために積んだ鍛錬や試練かもしれないし、自分が望んでいない貧困や災害、病気かもしれない。だがそうした苦難の一つ一つが細かい傷を伴いつつファセットとして磨かれ構成され、人を形つくっていく。

英語でダイヤモンドの原石はRough Diamondと言うが、別の表現では”Diamond in the rough”ともいう。だがこの言葉は慣用句として「実力を秘めた存在」という使われ方もする。輝くダイヤモンドがゴツゴツとした艶の無い原石の中に隠れているという表現が面白い。持って生まれた力を最大限活かすかどうかはCutting次第、ということなのだろう。