フィリピン工場の教育

今回はテクダイヤのフィリピン工場のお話。

フィリピンの義務教育レベルは残念ながらあまり高いとは言えない。特にモラルや常識という面では。

発展途上国なわけで貧しい人も多く、そもそも小学校だって行かない(行けない)人だって多い。親がろくに学校教育を受けていなかったりするのだから家庭での教育など推して知るべし。フィリピンのHigh School卒は日本の小・中学卒業レベル、彼らのCollege卒は日本でいうところの高卒レベルくらいだろうか。大学卒や大学院卒の中までになるとさすがにある程度の知識層の出身だからそんなことはないのだが。

一般工員はほとんどHigh School卒なので「こんなことまで教えないと駄目なの?」というレベルのことから教育が始まる。

まず、トイレの使い方。ウォシュレットの使い方ではない。普通の洋便器の使い方だ。じゃないとあのプラスチックの便座の上に靴で乗っかって用をたしたりするので、すぐ便座が壊れてしまう。自宅にちゃんと洋便器がある家庭の方が実は少ないからだ。フィリピンで観光旅行に行き現地のショッピングモールのトイレに行ったことのある人は知っているかもしれないが、便座が壊れているトイレは本当に多い。

それと性教育。これもきちんとやらないと会社で戦力になる頃に無計画に子どもが出来て産休となるから、生産計画に影響が出る。「子供を作るのは仕事をまず覚えて、収入が安定して結婚してから」なんて理屈は通用しない。フィリピンは避妊も駄目で人工中絶も駄目という、ものすごく矛盾した2つの考え方が両立している国なので子供が増殖しやすい。

フィリピンは厳格なカソリックの国。そのロジックは「我々は自制心を持った気高い人間であり、ただ快楽を求めるケダモノではない。だから避妊の必要が無い」というもの。堕胎がダメなのはキリスト教保守派の考えとしてはどこの国も同じなんだが。

しかし人間そんなこと言ったって無理。しかも放っておくとコンドームすら買うお金もケチるし、High School出たての子たちは日本の小・中学生みたいにウブだから恥ずかしくて避妊なんか言い出せず、快楽に身を委ねた結果として簡単に身ごもってしまう。

それでもフィリピンは大家族主義で、赤ん坊は母親や妹たちが面倒を見るので「子供が居たら仕事の邪魔になる」などという考えは無い。おまけに公的年金や国民健康保険なんかも無いから、子供はたくさん居るほうが将来の稼ぎ手となって老後は安心、となる。

またフィリピンは産業が少ないから安定した仕事に就くことは難しく失業率も高い。テクダイヤのような外資系企業の工場の仕事にありつくのはさらに大変だ。女子工員で結婚していても旦那が無職なんて珍しくもなく、一家が七人くらいがその女子工員一人の収入に依存している。

「子供ができたら家庭に入ろう」などと悠長なこと言ってられない。妊娠してちょっと休んで産んで、復帰してまた妊娠して休んで復帰して、のエンドレスリピート。これがまたびっくりするくらいギリギリまで働いて、出産後にさらにびっくりするほどすぐに復帰する。実際に、生まれる前の日まで働いて、生んで一週間で復帰という社員も居た。

他にも栄養の取り方の教育とか、衛生観念の教育とか、直接工場のオペレーションとは関係の無さそうな教育まで会社でやらなければならない。

日本ではあり得ないようなことでも「面白い」と思えるか、それとも面倒くさいと思うか。海外でやっていけるかどうかの差はそんなところにもある。