包丁の研ぎ方

with コメントはまだありません

料理は私の趣味の一つであるが理由は次の3つ。食べるのが好き、刃物が好き、火を扱うのが好き。後ろ2つはそれだけではかなり危険人物まっしぐらだから、料理が趣味で本当によかった。

刃物は好きだがあまり道具にのめり込むとキリがないので所持している包丁は結構普通。普段使うのはフィリピン赴任時に現地のデパートで買ったヘンケルス。それに加えて台湾に旅行に行った時に買った士林名刀の中華包丁。そしてこれまた香港に旅行に行った時に上海街で購入した陳枝記老刀莊の菜切り包丁。そして割と最近購入したのが、適当にネットで買った出刃包丁だ。

住んでいる県が海に面していないせいか、なかなか新鮮な魚に出会うことが無い。そのためこの出刃包丁の出番がほとんどない。ところが最近砥石を新調したのをきっかけに研ぎ直してみると、あらまぁびっくり。包丁で手の甲に生えてる毛が剃れるではないか。なんだこの切れ味は!

ヘンケルスだって悪い包丁ではないが、ちゃんと研いでもそこまでの刃はつかない。自分が購入した出刃包丁が何だったか改めて調べてみると、はたしてそれは安来鋼の青紙二号だった。

安来鋼というのは日立金属が開発したハガネで、青紙鋼は白紙鋼と共に高級な、それこそプロの板前が使うような包丁に使われる素材だ。私が買った包丁はかなりお得な買い物だったようだが、ちゃんと研ぐまでその真価に気づかなかった。

包丁研ぎは砥石の目の粗さを、粗い方からだんだんと細かくしていくのが鉄則。いきなり細かい番手で研磨しても鋭い刃はつかない。だから根気よく丁寧に、手抜きをせずに研いでいく。1000番で取れない傷は2000番では取れない。2000番で取れない傷は5000番では取れない。きちんと1000番の下地、2000番の下地それぞれをじっくりと作ってからでなければ5000番の砥石は使えないし、つかっても5000番の刃先にならない。鋭い刃は手抜きではつかないのだ。

そんなことを考えていると入社間もない20代の時に私が前社長に言われた言葉をふと思い出した。

「20代の生き方が30代の生き方を決める。30代の生き方が40代を作る。そして40代の生き方で50代からの人生が決まる。10代で花開かなかったとしても焦らずしっかり経験を積めば大成する。若い時に優秀だった奴でもそのあと駄目になるやつは多い」

転職して振り出しに戻ってしまったかと思い、妙にあせっていた自分に対して投げかけてくれた言葉だ。

調子に乗って出刃包丁の切れ味を試したことによってツルツルになった毛の無い左手の甲を見ながら、私はその言葉をあらためて噛みしめたのだった。