危ないサイン

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芝浦は俗にグルメの不毛地帯と言われている。田町駅を挟んで反対側の三田界隈は慶応大学があり、学生街らしく食べ物屋、飲み屋が多く充実している。それに比べ芝浦は今でこそ高層マンションが建っているが、もともと港湾の倉庫街でそれ以外なーんも無いところだった。なので気の利いたランチどころを探すのが難しく、なんで存在しているのか理解の難しいハズレの店は少なくない。

二度と行きたくないお店の一軒目は、見た目は普通の中華料理屋。お昼時にそこそこ流行っているが、ちょっと値段は高め。食べてみて分かったのは、やたらと量が多い。え?大盛り頼んだっけ?という量だ。それに加えて頼んでないのに小ライス付き。炭水化物アンド炭水化物。学生でもなければフルマラソン控えた選手でもないんだぞ。

味は可もなく不可もなくというところだったが、問題は夕方になって訪れた。なぜかやたらと身体がだるい。急に風邪でも引いたのかと思うほど身体が動かない。変なところで食べると油が身体に合わないらしく、この現象が起きる。やたらなところで揚げ物を食べないようにしていたが、まさか麺モノでこうなるとは思わなかった。

実際、お店に入った瞬間に嫌な予感がしたのだ。厨房周りがあまり清潔な感じがしない。汚くて美味い店というのはわからなくもない。が、冷静に考えれば汚い店の食材の管理は良い訳が無い。酸化した古い油に継ぎ足して使ってるのだろう。

こうして二度と行かない店が誕生した。

翌週はまた別の店に行った。今度は比較的会社から近い居酒屋だ。居酒屋のランチに期待するものではない、という結果を見事に立証してくれたお店になった。

その店はラーメンに焼き魚に海鮮丼にメンチカレーと何でもある。海の家じゃあるまいし、なんだ、その統一感の無いメニューは。バラエティー豊かなラインナップでちゃんとした食材を揃えるのは不可能だから冷凍とレトルトなのは明らか。ピリ辛担々麺+ミニ中華丼を注文したが、担々麺は辛くも無いし風味も無い、中華丼は小学校で出てくる給食以下のどうでもいい食べ物だった。

それでもこの店が流行っている理由は喫煙可だからだろう。港区は屋外での喫煙が禁止だ。お昼にタバコを吸う目的で利用する客を当てにしているに違いない。客の喫煙率は多く、店内は港区なのに霧のロンドンさながらに視界が悪い。

この店も入り口で嫌な予感がした。店先に並んだサンプルが、サンプルではなく実物が置いてあるのだが、これがいけない。麺物は麺が伸びきってスープは見えず超大盛りのように器から溢れているし、刺身系は食べたらあかん!という怪しげな色を放っている。わざとお客が入らないようにしているとしか思えない。案の定この店は現在潰れてしまい、今はもぬけの殻となっている。

まずいお店はまずいサインが出ている。

就活の服装や髪型、化粧などもサインの一つだ。悪いサインが出ているからといってそれだけで不合格になることはない。しかし「おっ、この学生は肩にフケが積もってる。きっと衛生面に気が回らないほどの高い集中力を発揮していい仕事してくれるはずだ」とか「シャツがヨレヨレな学生は研究開発向きだ」などと、ポジティブな方向に受け取ってくれるなんてことは絶対ない。むしろ本戦に入る前に相手に嫌な予感をさせるだけにしか作用しないのだ。

「スーツなんて」「見た目なんて」と思うのは当たり前の感情だ。しかしそういう「つまらないこと」で損をするのはもっとつまらない。