自己成長という言葉の罠

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つい最近、ソムリエの田崎真也さんが日本ソムリエ協会の会長に就任するという新聞記事を見かけた。アジア人初の国際ソムリエコンクール優勝者でもあり、既に国際ソムリエ協会の会長もやっているから日本ではとっくにその役についたことがあるものと思っていたので意外だった。

 

その田崎さんがソムリエという仕事について以前テレビでこんなことを言っていた。

「この世の中には無くてもいい仕事なんです。別に無くても誰も困るわけでもないですし。でもあった方が良かったって思われるかどうか、というところに今その価値を見出したいと考えているんです」

どんな仕事でも自分なりの付加価値をつけていくことは大切だ。そこに自分なりの個性が発揮される。就活において「自己成長」を軸に置いている学生は多い。個性を発揮すること、自分らしく生きることは仕事にやりがいを見出すための重要な要素でもある。しかし、個性の発揮が組織の成長に繋がるとは必ずしも言えない。他人を活かすためには時には自分の良さを殺すことも大事。あえて自分は出て行かずに他人にチャンスや手柄を譲ってあげることは組織成長のための重要なテクニックだ。チーム全体として成熟していくことが継続的な成長を生んでいく。

 

かつて私が就職活動をしていた時のこと。地元どころか関東近縁でも有名なお酒の量販店があった。まだネット通販や宅急便が発達していないような時代だったから、それこそ年末年始や花見のシーズン、お盆の前などは遠くから自動車でまとめ買いするお客で、近隣は渋滞するほどの盛況ぶりだった。

同級生たちが有名上場企業に応募するのを尻目に、貿易の仕事に携わりたいと思った私は、手広く輸入食品まで手がけていたその酒屋さんに応募し面接をしてもらった。組織としてはアルバイトやパートが多い割に正社員が少ない会社だったので、最初からいきなり専務同伴の社長面接だ。さすがにそれだけ勢いのある会社だから社長は非常に個性的でエネルギッシュ。眼光鋭く、話をしていてもこっちの言いたいことが全部見透かされているような凄みのある人だった。

 

しかしその片腕ともいうべき専務は、これまた絵に描いたように大人しい、ひ弱そうなイエスマン。オーラも弱々しく、正直あまり一緒に働きたいと思えない。専務の下はおそらくアルバイト並の一般社員しか居ないだろうことはすぐに分かった。いろいろ考えてその会社には入社することは無かったが、その会社もその後10年ほどして倒産してしまった。

 

どう考えても社長がなんでも口を出し即断即決。周囲はそれに従うだけ。じゃなければワンマン社長はやりにくいだろう。これじゃ組織は強くなるわけがない。自分が自分が、の成れの果ては周囲を食い散らかし、疲弊させる。

自己成長が包括的に「チームワーク力の成長」まで含むのであれば大歓迎だが、時にそれは自分を第一優先にしか考えていない、わがままな「自分さえよければ」にしか聞こないときもある。就活生は注意されたし。