今回はテニスのお話から。1996年ウィンブルドンの女子準決勝でのできごと。今でも現役で活躍している伊達公子とシュテフィ・グラフの試合中、サーブ前の静まる試合会場で突然グラフにヤジが飛んだ。
Steffi! Will you marry me?
これに対するグラフの対応が素晴らしかった。
How much money do you have?
この試合はものすごい大激戦で、雨による中断で翌日に第三セットが行われるという異例の試合展開。結局グラフが勝つのだが、このやりとりのあった第二セットはグラフが落としていた。にもかかわらずこの余裕。(この様子はYoutubeにもアップされている)
何がすごいかって、きちんとヤジの内容を聞いているだけでなく、ウィットの富んだ切り返しをしているところだ。じつは面接の極意はここにある。
昨日はテレビ会議システムを使い、上海事務所にやってきた候補者の面接を行った。
私「日本での留学経験の中で何が一番の思い出ですか?」
候補者「富士急ハイランドに行ったことです」
私「富士急ハイランドの何が面白かったのですか?」
候補者「お化け屋敷です」
私「お化け屋敷のどんなところが面白かったのですか?」
候補者「すごく怖かったところです」
ハイ、面接修了(笑)。
面接そのものは日本語で行われている。それほど日本語が得意な候補者ではなかったが、言語の問題ではない。相手の意図を汲んで話ができるかどうか、こちらから打ったボールをきちんとラケットで捉え、それを打ち返せるかどうかが問題なのだ。この会話内容では打ち返すどころか素手でボールをキャッチしているようなもの。ラリー(打ち合い)になっていない。聞かれたことにただ必要最低限こたえるだけでは会話は発展しないのだ。
また面接になると用意したセリフを何回も練習して、本番になってただそれをしゃべる学生がたくさんいる。志望動機、自分の長所と短所、これまでに頑張ったこと、感動したこと、将来の夢。きちんとしゃべれて当たり前だし、ひょっとしたら嘘かもしれない。さらには他人がアドバイスして書かれた可能性は高い。そんなものを聞いても意味は無い。会話が面白いだけかどうかだったら漫才でも用意して話せばいい。面接官と歯車が合って盛り上がるためにはまず聞くことが大事なのだ。
グラフのようにウィットの富んだ会話は誰にでも出来るものではないが、聴くことは誰にでも出来る。相手がどんな答えを望んでいるのか、何を知りたいのか、ひたすら集中すること。傾聴はほんとうに重要だ。
良い球を打ち返すには、まず来たボールをよく見ること。目をつぶってボールは打てない。テニスと会話は似ている。